琵琶 双山敦郎 晴耕雨琵

琵琶プレーヤー双山敦郎のブログ

『ゴーストオブツシマ』と琵琶

プレステ4の新作ゲーム
『ゴーストオブツシマ』が琵琶界を熱くする!

のか!?

 


『Ghost of Tsushima』 未曽有の動乱、日本上陸。



『ゴーストオブツシマ』は
鎌倉時代対馬を舞台に、
島を襲いかかるモンゴル軍に
主人公の武士坂井仁らが反撃するというストーリーのゲーム。

このゲームは邦楽愛好家には嬉しいゲームで、
主人公はアイテムとして尺八を持ち
色んな場面で尺八を吹くことができる。
一部では尺八ゲーとも評されているとかいないとか。

更に、このゲームでフューチャーされているのが琵琶、
各エピソードを進める重要キャラクターとして琵琶法師が出てくる、
計7箇所で、琵琶法師から語りを聞くことでヒントが得られる仕組み。

かつてこんなに琵琶がゲームに取り入れられたことがあっただろうか。
これは、琵琶ゲーと呼んでも過言ではない、とかなんとか。

しかも、これを世界中でプレイされているのです。

つまり、
世界中で日本の語り芸である『琵琶法師』という存在と
琵琶という日本の弦楽器が知られることになるのです。

これは熱い。
ということで、
このように琵琶をフューチャーして頂いた製作陣に敬意を評して、
ゴーストオブツシマをプレイされた方が琵琶について疑問に思うようなことを
Q &A形式で答えていきたいと思います。

その前提として、
まず、『ゴーストオブツシマ』の素晴らしいところは、
深い史料研究をしながらも、エンターテインメントとして成立する「いい塩梅の」アレンジをしている事、

ここですね。

元寇という史実を素材にはしていますが、
あくまでフィクションの物語、いわばサムライファンタジーなのです。
とはいっても、日本人にとって違和感のない描かれ方をしている。

それは琵琶や琵琶法師の描かれ方としても同じで、
相当に勉強されたのだろうと感服しております。

ですので、
これから書くことも、いわゆる「間違い探し」という趣旨ではなく、
本ゲームで琵琶を知った方に、更にもっと知って欲しいという趣旨だと
思ってもらえたら幸甚に存じ致し候。

Q1.ゲームの中にいるような琵琶法師って本当にいたの?

A.本当に居ました。

の前に時代の検討なのですが、
『ゴーストオブツシマ』は二つの時代の側面があると思います。


一つは題材にされた元寇の時代、
1度目の文永の役(1274年)、
2度目を弘安の役(1281年)
この13世紀後半の中世日本ですね。

次に、多くの方が指摘されているとおり、
これは戦国時代、江戸時代の時代劇である、という側面です。
それは装束や所作、武士道の概念にも通じます。

おそらく製作者は、まずは黒澤明小林正樹監督の時代劇作品、
世界に通ずる「サムライ」の物語を作りたかったのだろうと思います。

その上で、単なる武士道の建前としての精神だけでなく、
その虚飾性にもスポットライトを当てて、
表と裏から武士道を描きたかったのでは、

この武士道の虚飾というテーマは
小林正樹監督『切腹』という映画でも取り上げられています、
主人公が「如何に武士と言え、所詮は血の通う人間、霞を食って生きていけるものでもない」
と述べ、冥人さながらに暴れ回るシーンがあります。
もしかしたら、製作者のどなたかが「切腹」を見ていたのかもしれません。

そして、この武士道の虚実をエンターテインメントとして表現するうえで、元寇が適していると考えたのだろう、と。
武士道精神の通じない外敵を登場させて
誉を取るか民を守るかの悩みをみせたり、
日本文化とモンゴル文化を絵としても対比にできます。 

従って
『ゴーストオブツシマ』は、
元寇のあった中世日本の物語でもありながら、
もし戦国時代〜江戸時代に元寇があったなら?
という近世日本の物語でもある。
二つの時代性があると思うのです。

そこで、
琵琶法師の時代背景も中世と近世に分けてお話します。

(1)元寇の時代〜平家物語を語り始めた黎明期の琵琶法師〜

 

琵琶は雅楽の楽器の一つとして7世紀頃に日本にもたらされ、

主に貴族などの高貴な身分によって弾かれていました。

音楽も語り物ではない器楽のものでした。

それが平安後期には民間の盲人の手にも渡り、

声明や説法に節を付ける音楽の伴奏として、

語り物芸に発展をしていったのだろうと考えられています。

 

そのような琵琶法師が全国的に広まったのが

平家物語

源平合戦によって敗れた平家の鎮魂のため、

国家プロジェクトとして平家物語が作られたのですが、

その普及として琵琶法師が選ばれたのです。

 

平家物語』という強ネタを得た琵琶法師は、

そのネタを手に寺院や神社を拠点にして、

また地方を流浪するように琵琶を弾じたといわれています。

(IKKOを手に入れたチョコプラ松尾さんみたいな)

 

平家物語の最古の演奏記録は

1297年『普通唱導集』に載っている

勾当という琵琶法師が語ったとされるもの。

元寇から約十年前ですね。

従って、ゲーム内の琵琶法師は

平家物語」というヒット曲を出す直前期、

CUBIC U時代の宇多田ヒカルのような感じです笑。

 

ゲーム内の琵琶法師は

ときに地域の伝承の戦記物語を語ったり

ときに自身が旅で得た知識を話しています。

 

このように、その時代の琵琶法師は、

識字率の低い庶民にとっては

物語を紡ぐ書物のような存在であり、

旅で得られた各地の風聞を知らせるニュースキャスターのような存在だったといえます。

(言わば、ロードス島戦記であり、古舘伊知郎さんだったのです)

 

13世紀後半の時代からみると、

平家物語を語り出す、まさに黎明期の琵琶法師としての存在といえます。

 

(2)戦国時代、江戸時代の琵琶法師 〜九州盲僧琵琶〜

時代が下って近世となるとニュースキャスターの要素が薄まっていきます。

16世紀に三味線が伝来し、新しい語り物形式として浄瑠璃が興ります(浄瑠璃というと「人形浄瑠璃」が思い浮かぶ人が多いかもしれませんが、人形のない三味線と語りの音楽形式です)。

三味線という語り物芸のニューホープが琵琶が出てくると、

次第に琵琶語りは仏教儀式や伝統芸能としての性格を濃くしていきます。

(お笑い第七世代に押されていく中間芸人勢のようなものでしょうか)

盲人のグループも次第に組織化されていき「座」を形成していきます。

その「座」では按摩、箏、三味線と同じく琵琶も芸の一つとされていました。

江戸時代になると幕府は「当同座」という大規模グループに琴や三味線を独占権を与えます。

そのグループに属さなかった、マイノリティグループは三味線を使えないので、若干仕方なく(笑)、ひと世代前の楽器である「琵琶」を手に取りました。

(非吉本芸人の地方公演みたいな笑)

 

これが盲僧琵琶に発展して、

九州地方を拠点にして竈門の神を鎮める地神経など宗教的な音楽や

滑稽物語、戦記物語などを語ったといわれます。

 

対馬も地域的にそんな盲僧琵琶の琵琶法師が活躍していたと思われます。

 

この時代の琵琶法師は、知識媒体やニュースソースとしての役割は薄まって、

次第に芸能や宗教的役割が大きくなっていきます。

その分、音楽芸能としては洗練されていきました。

(ニュースキャスター古舘さんからMISIAさんへ)

 

ゲーム世界が近世日本だとすると、

ゲームの琵琶法師は、盲僧琵琶の祖としての琵琶法師であり、

三味線人気に押されながらもら、芸を磨いて人々を惹きつける存在といえます。

 

ゲーム内の琵琶法師は、まさに洗練した語りと手を披露してますし、

人々が輪のように囲んで楽しんでいる様子も見えますので、

近世の琵琶法師としての側面もありそうです。

 

Q2.楽器の形が正倉院の琵琶と違うようだけど?

A.はい、琵琶法師は正倉院螺鈿紫檀五弦琵琶とは別のタイプの琵琶を弾いてました。

 

これは琵琶アルアルなのですが、

琵琶を弾いているというと、

正倉院のあれ?」と言われることがあります。

でも、残念ながら正倉院の琵琶とは、「琵琶」という名前は同じでも、全く別の弦楽器なのです。

 

正倉院の琵琶は、写真をみてもらうとわかるのですが、

弦を締める糸巻きの部分(ヘッド)がネックと真っ直ぐになってます。これを直頸琵琶といいます。

正倉院の琵琶じゃない琵琶は、

雅楽で弾かれる楽琵琶も平家琵琶も盲僧琵琶も

首がグニンと曲がってます。これを曲頸琵琶といいます。

 

 

正倉院の直頸琵琶は日本に来てから

さほど普及せずに廃れてしまいました。

なので、今となってはどんな音楽をどんな調弦でどう弾いていたかはわからないのです。

 

ゲーム内の琵琶法師が弾いてる琵琶を見ると、

ヘッドが曲がっています。

そして、全体的に細長いですよね。

 

このゲーム内の琵琶は直頸琵琶の中でも

盲僧琵琶といって

持ち歩きに便利なように小型化した琵琶、

先ほど書いた九州地方でお経を唱えたり物語を語っていた盲僧が弾いていた琵琶なのです。

この盲僧琵琶は笹のように細く膨らんでいたので

笹琵琶とも呼ばれます。

 

ここが琵琶人が唸るところです。

琵琶、とだけ聞いたら、

雅楽で使う楽琵琶や、

近代に普及した薩摩琵琶や筑前琵琶を真っ先に思いつきそうなところ。

 

ここを盲僧琵琶をチョイスするあたりに製作者の気迫を感じます。

奏法も、琵琶の寝かせ方、撥も、きちんと描かれています。

アメリカのゲーム会社ですが、相当に深く調べて頂いたと思います。頭が下がります。

 

Q3.実際にあんな音楽だったの?

A.おそらくもっと素朴だったと思います。

 

(1)中世の琵琶法師は、

雅楽から分かれて語り物芸に発展する中途だったといえます。

従って、雅楽の琵琶の奏法を基礎にしながら、

拍子木のように、語りの合間にトンと開放弦を弾いたり、

少しフレットを押さえて、バラランと下に下ろすような

素朴な音楽だったのではないかと言われています。

 

現在伝承されている楽琵琶や平家琵琶の中間のような音楽でしょうか。


【雅楽ハウツー】楽琵琶を弾いてみよう1(平調音取・越殿楽)

 

(2)近世の盲僧琵琶

近世の盲僧琵琶の音楽は、現代で最近まで伝承されていた盲僧琵琶の音源がありますので、

「盲僧琵琶」で動画で検索して頂きますと映像が見つかると思います。


盲僧琵琶 山鹿良之 「羅生門」 Story of Rashomon

 

お経のリズムに合わせてジャカジャカとかき鳴らしたり、

語りの合間に古典型を弾くなど、

楽琵琶や平家琵琶とは違うエンターテインメント性が認められます。

 

そして、

ゴーストオブツシマでサウンドトラックで使用されたり、

琵琶法師が登場するシーンで演奏されているのは薩摩琵琶です。

 

薩摩琵琶は盲僧琵琶から発展して、

薩摩藩の武士が士気向上のために戦記や祝い物の曲を弾いたもの。

近代ではオーケストラとの合奏のために音量や奏法も改良されたものもあります。

 


武満 徹:ノヴェンバー・ステップス

 

従って、『ゴーストオブツシマ』は

楽器としては盲僧琵琶を使い、音楽は薩摩琵琶を使っています。

このアレンジもゴーストオブツシマの絶妙なところ。

 

実際に盲僧琵琶は伝承が途絶えてしまい、演奏者はおりませんし、

奏法やエンターテインメント性からも素朴過ぎたのだろうと。

 

史実を基にした創作物語は

史実からズラす塩梅が難しいところですが、

素晴らしい塩梅だと思います。

 

Q4.私も琵琶を弾いてみたい!

A是非是非!

ゴーストオブツシマのように琵琶法師コスで弾いてもよいですし、

平家物語などの古典から現代曲、ポップス、ロック、アニメ曲など、

琵琶は何でも弾ける楽しい楽器です。

私が開発した立奏用ストラップを使えば(宣伝です笑)

マイケルJファックスばりに動き回りながら弾けます。

 

楽琵琶、平家琵琶、薩摩琵琶、筑前琵琶

いろいろ検索して自分に合う楽器を見つけて、

是非お近くの琵琶教室をお訪ね頂けましたら。

 

というわけで、

琵琶を素敵に描いてくれてありがとうございますサッカーパンチプロダクションさん、

皆さまも琵琶法師に着目しながら

ゴーストオブツシマをプレイしてみてはいかがでしょうか。

 

琵琶 双山敦郎